鉄ゴマ(メーカー不明、1970〜75年頃使用)


鉄ゴマというのは独楽の一種で、わたしが少年時代を過ごした広島においては、
当時最もポピュラーなコマであった。

鉄の芯棒が木の本体に刺さっており、その木の周囲を鉄の輪が取り巻いている。
硬くて太い綿のひもを螺旋状に巻き、回した。
(余談だが、ひもは水たまりの泥水に浸け、硬くしてから使うのがミソである)
鉄の輪は鋳鉄でずっしりと重く、いかにも存在感がある。
別名を「ケンカゴマ」という。


3〜4人で集まり、アスファルトの道路で対戦するのだが、
今考えると特別にルールがあったわけではないように思う。

ただ単純に、最後まで回っているコマが偉いのだ。

コマを回すときに、いかに強く回転力を伝えるか?
いかに敵を道路の端に跳ね飛ばすか?である。

そして勝つポイントは、いかに回転力を弱めず道路の端から復活できるかであった。
(ご存じのように道路の断面はカマボコ型をしており、
端にいくとブロック状のコンクリートに激突して死んでしまうのだ)

ところで、一般的なケンカゴマであるベーゴマというものは、
西の地方では存在しないも同然であった。
西の地方で、冬のコマ遊びといえばこの鉄ゴマのことを指していた。

ベーゴマやメンコは、勝負に勝つと戦利品としてそのモノをブン取ることができるが、
鉄ゴマではまずそんなことはやらなかった。

なぜか?
その理由は、値段が高かったからか?(300円程度だったか?)。
それとも、その大きさにあったのか?(直径10cm程度)。

いやいや、それよりも重要なことがあった。
鉄ゴマは「男の武器」だったからだ。


鉄ゴマはふつう、一人で一つしか所有しないものだった。
(もちろん例外もあったかも知れないが)

それは、高価でもあったからだが、それよりも唯一の自分の鉄ゴマ以外に、
他が必要なかったからである。

つまり、鉄ゴマは思い入れの塊であり、大げさに言えば、武士の刀と同様のものだった。
それを奪い合うということをしなかったのは、ガキなりに男のプライドをかけて戦う「モノ」に、
「武士の情け」をかけていたということだろう。


当時のわたしにとって、鉄ゴマは自分の誇りであった。
その冷たく重い鉄輪と、硬い紐の記憶は、今でもこの手に思い起こすことが出来るのだ。


ところで、あなたは自分のプライドをかけて戦うための「モノ」をお持ちだろうか?
現在のわたし自身のことを考えてみると、唯一と断言できるそれが、残念ながら思い当たらない。

多くの「モノ」に囲まれ、純粋に唯一と言えるモノがないように思う。
過去を懐かしむわけではなく、この時代に馴らされてしまった自分を寂しくも思う。

しかし、不幸ではない。
わたしがこの後、記すであろう無数のモノの感触の記憶は、
わたし自身であり、時代でもあるのだから。(了)



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